DAW(音楽制作ソフト)でエフェクトを使うとき、「インサート」と「センド」という2つの方法が出てきます。同じリバーブでも、どちらで挿すかで、音の作りやすさもパソコンの負荷も変わります。この記事では、2つの違いと、歌のリバーブ・ディレイはセンド、コンプやEQはインサートで使うことが多い理由を、DAWメーカーの公式マニュアルやFabFilterの学習ページの説明をもとに、初心者向けに整理します。
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結論:「全部通す」ならインサート、「少し分けて送る」ならセンド
- インサート:トラックの音を、エフェクトに丸ごと通します。コンプレッサーやEQなど、音そのものを整えるエフェクトに向いています。
- センド(AUX):トラックの音の一部を、別のトラックに分けて送ります。リバーブやディレイなど、「元の音に、空間の響きを足す」エフェクトに向いています。
- 歌のリバーブをセンドにすると、複数のトラックで1つのリバーブを共有でき、響きの量を調整しやすく、パソコンの負荷も抑えられます。
インサートとは
インサートは、トラックの信号の通り道に、エフェクトを直接差し込む方法です。Logic Proの公式ガイドでは、チャンネルストリップにプラグインを直接挿したものを「インサートエフェクト」と呼び、チャンネルの信号全体がエフェクトで処理される、と説明しています。そして、この方法はイコライザーや、コンプレッサーのようなダイナミクス系のエフェクトに向いていると書かれています。
インサートに複数のプラグインを挿すと、上から順に信号が流れます(直列)。前のプラグインの出力が、次のプラグインの入力になります。Logic Proでは、1つのチャンネルストリップに最大15個までインサートできる、とされています。
たとえば、歌のトラックに「EQ → コンプ」の順で挿すと、EQで整えた声をコンプが受け取ります。順番を入れ替えると音も変わるので、並べ方も大事です(歌のプラグインの順番は「ボーカルのプラグインの順番」で説明しています)。
センドとは
センドは、トラックの信号を「分けて」別の場所に送る方法です。Logic Proの公式ガイドでは、センドを作ると、チャンネルストリップの信号が分かれ、元の信号は通常どおり出力へ進み、もう一方は並列の道を通ってAUXチャンネルストリップ(エフェクト用のトラック)に送られる、と説明しています。送る量は「センドレベル」のつまみで決めます。これを「並列ルーティング」と呼びます。
エフェクトを挿す先のトラックは、DAWによって呼び方が違います。
- Logic Pro:AUXチャンネルストリップ
- Cubase:エフェクトチャンネルトラック(古いマニュアルではFXチャンネル)
- Ableton Live:リターントラック
Abletonのマニュアルでは、リターントラックについて、1つのデバイス(エフェクト)の効果を、複数のトラックで分け合うために使える、と書かれています。
歌のリバーブ・ディレイをセンドで使う理由
FabFilter Learnの「How to use reverb?」では、ミックスでリバーブを使うもっとも一般的な方法として、リバーブを挿したAUXトラックを作り、リバーブの設定を100%ウェット(エフェクト音だけが出る設定)にして、各トラックからセンドで送る方法を紹介しています。理由として、次の2つが挙げられています。
- 響きの量(ウェットとドライのバランス)を調整しやすい:元の音(ドライ)はそのままで、リバーブ音の量はセンドのつまみで決められます。
- メモリとCPUの負荷が減る:各トラックにリバーブを挿すより、同じリバーブに複数のトラックを送るほうが、負荷が小さくなります。Logic Proの公式ガイドも、センドの一番の利点は効率だと説明しています。
FabFilter Learnには、すべてのトラックが同じリバーブを共有すると、ミックス全体のまとまりが出やすい、という説明もあります。歌ってみたでは、歌・コーラス・楽器をひとつの空間にまとめたいときに、役立つかもしれません。
Logic Proのガイドには、ほかにも便利な点があります。AUXのエフェクトをバイパス(一時的にオフ)にすれば、センドしているすべてのチャンネルの「エフェクトあり・なし」を一度に聞き比べられます。また、AUXのエフェクトを入れ替えれば、送っているトラック全部の響きをまとめて変えられます。
ディレイも同じ考え方です。歌のディレイをセンドに置くと、元の声はそのまま、エコー音だけを別のトラックで調整できます。FabFilter Learnでは、センドのレベルをオートメーション(時間で変化させる設定)にして、曲の場面転換で動きを出す使い方も紹介しています。リバーブとディレイの具体的な設定は「ボーカルのリバーブ・ディレイ解説」にまとめています。
コンプやEQをインサートで使う理由
コンプやEQは、その声(トラック)自体の音を変える道具です。声の音量差をそろえる、不要な低音を削る、といった処理は、そのトラックの音全体にかけたいものです。Logic Proのガイドで、インサートは「チャンネルの信号全体を処理する」ため、イコライザーやコンプレッサーのようなダイナミクス系に向いている、と説明されているのは、このためです。
もしコンプをセンドで使うと、元の声はそのまま出て、コンプをかけた声が追加される形になります。この使い方もできて、「パラレルコンプ」と呼ばれます。FabFilter Learnの圧縮のページにも、バス、パラレル、ミックスバスという圧縮のやり方の項目があります。ただし、はじめは普通にインサートから試すほうが、仕組みを理解しやすいでしょう。
インサートとセンドの比べ方まとめ
| インサート | センド(AUX) | |
|---|---|---|
| 信号の流れ | トラックの信号が、エフェクトを通る | 信号が分かれ、一部が別のトラックのエフェクトへ行く |
| 向いているエフェクト | EQ、コンプなど(Apple公式) | リバーブ、ディレイなど(FabFilter Learn) |
| 複数のトラックで共有 | しにくい(トラックごとに挿す) | しやすい(1つのエフェクトを共有) |
| パソコンの負荷 | 挿した数だけ増える | 共有すれば抑えられる(Apple公式) |
| エフェクトの設定 | 元の音との割合は、プラグイン内で決める | リバーブなどは100%ウェットが基本(FabFilter Learn) |
センドを使うときの注意点
1. プリフェーダーとポストフェーダー
センドには、トラックのボリュームフェーダーの「前」から送るか「後」から送るかの選択があります。CubaseのヘルプやLogic Proのガイドに、どちらも書かれています。
- プリフェーダー:フェーダーの前から送るので、フェーダーを動かしても、送る量は変わりません。
- ポストフェーダー:フェーダーの後から送るので、トラックのボリュームを下げると、エフェクトへ送る量も一緒に下がります。
Logic Proにはもうひとつ「ポストパン」があり、フェーダーとパンの両方の後から送ります。はじめは、ポストフェーダーのままで迷うことは少ないでしょう。
2. パンの扱い
FabFilter Learnによると、多くのDAWではセンドにもパンがあります。ソロで聞くとよく聞こえても、全体のミックスでは、元の音と逆側にパンすると散らかりやすいことがあるそうです。ミックス全体の中で確かめるのが大切です。
3. かけすぎない
FabFilter Learnでは、リバーブを多くのトラックから大量に送ると、ミックスがにごりやすいと述べています。リバーブの音がはっきり聞こえるところまで上げ、そこから少し戻す、というやり方が紹介されています。必ず曲全体の中で調整するようにします。
4. 設定を「100%ウェット」にする
センド用のリバーブは、プラグイン内のミックス(Mix)を100%にするのが基本です。ドライ音が残っていると、元の音が二重になり、音がにごることがあります。
やり方のイメージ(DAWごとの呼び方)
画面の名前はDAWで違いますが、流れは同じです。
- エフェクト用のトラックを作る(Logic ProならAUX、Cubaseならエフェクトチャンネル、Abletonならリターントラック)。
- そのトラックにリバーブやディレイを挿し、ミックスを100%ウェットにする。
- 歌のトラックのセンドの量を上げて、その応答先を作ったトラックに設定する。
- 響きの量は、歌のトラック側のセンドのつまみで決める。
Cubaseのヘルプでは、オーディオチャンネルのセンドスロットからエフェクトチャンネルに送り、送った分がエフェクトを通る、と書かれています。Logic Proでは、センドのポップアップメニューから送り先のバスを選びます。
よくある質問
Q. リバーブをインサートに挿してはいけませんか?
いけないわけではありません。1つのトラックだけに専用の響きがほしいときなどは、インサートでも使えます。ただ、複数のトラックで響きをそろえたい、あとから響きの量を細かく変えたいときは、センドが便利です。
Q. センドとインサートは、音質が違いますか?
エフェクトの処理自体は同じです。違うのは信号の流れ方で、「全部通す」か「分けて送る」かです。
Q. 歌ってみたの初心者は、まずどうすればいいですか?
歌のトラックにはEQとコンプをインサートで挿し、リバーブとディレイは、エフェクト用のトラックにセンドで送る、という形から試してみるのがよいかもしれません。ミックス全体の流れは「ボーカルMIXの流れ」で説明しています。
Q. 無料のプラグインでもできますか?
はい。インサートもセンドも、DAWの機能なので、プラグインが無料でも有料でも同じ方法で使えます。無料のプラグインは「無料プラグインまとめ」で紹介しています。


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