歌ってみたのMIXで、最初に触ることが多いのが「ハイパスフィルター」です。名前は難しそうですが、やっていることは、基本的に「指定した周波数より低い音を減らす」ことです。この記事では、何をするフィルターなのか、なぜボーカルに使うのか、切る周波数をどう決めるか、切りすぎるとどうなるかを順番に解説します。マイクやオーディオインターフェースにあるローカットスイッチとの違いも、メーカーの資料にある範囲でまとめました。
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結論:ハイパスは「声にいらない低音を通さない」フィルター
- ハイパスフィルター(HPF)とローカットは、同じものです。指定した周波数より低い音を減らします。
- ボーカルでは、足音・エアコン・机の振動などの低いゴロゴロ音を減らし、オケの低音と声がぶつかるのを防ぐために使います。
- 切る周波数に決まった数字はありません。FabFilterは「効きが聞こえ始める場所を探し、そこから少し戻す」という耳で決める方法を紹介しています。
- 切りすぎると声が細くなります。ソロではなく、オケと一緒に聞いて確かめます。
- EQのハイパスは後から何度でも直せますが、マイクやインターフェースのスイッチは録音の時点で音に入ってしまいます。
ハイパスフィルターとは
名前の意味
FabFilterの解説では、ハイパスフィルターは「高い音をそのまま通し、設定した周波数(カットオフ周波数)より低い音を取り除くフィルター」と説明されています。低い音を切るので「ローカットフィルター」とも呼ばれ、HPFと略されることもあります。反対に、高い音を切るのがローパスフィルター(ハイカット)です。
周波数の単位はHz(ヘルツ)で、数字が小さいほど低い音です。ハイパスの設定が100Hzなら、100Hzより下が減っていきます。
「どれくらい急に切るか」はスロープで決まる
ハイパスは、設定した周波数でスパッと音が消えるわけではありません。周波数から離れるほど、だんだん強く減っていきます。この減り方の急さを「スロープ」と呼び、dB/オクターブ(dB/oct)という単位で表します。数字が大きいほど急に切れます。FabFilter Pro-Q 4のヘルプでは、スロープを0〜96dB/octの範囲で細かく変えられると説明されています。
出典:FabFilter Learn、FabFilter Pro-Q 4 ヘルプ
ボーカルにハイパスを使う理由
FabFilterは、ハイパスフィルターを「楽器の音域より下にある、音楽的でない音や、ほかの音の混ざり込みを取り除くのに役立つ道具」と説明し、ミックスを始めるときに最初に手を伸ばすことが多い道具だとも書いています。歌ってみたのボーカルに当てはめると、次のような場面が考えられます。
- 録音に入った低いノイズを減らす:足音、エアコン、机や床を伝わる振動、マイクスタンドへの接触音など。声の音域よりずっと低いところに乗りやすい音です。
- オケの低音の場所を空ける:FabFilterは、低音の帯域は音が重なると場所を取り合い、ミックスのバランスに大きく影響すると説明しています。ボーカルの低い成分を整理しておくと、ベースやキックを聞きやすくできるかもしれません。
- EQの順番を整理する:不要な低音を削るEQは、コンプの前にかけるのが一般的です。理由は「歌ってみたMIXのプラグインの順番」で解説しています。
FabFilterは、20〜50Hzあたりの低い帯域を「聞こえるというより体で感じる帯域」と説明し、この帯域は足すより削るほうが多いとも書いています。50〜125Hzはベースやキックの基音が出る帯域で、ここも重なりやすい場所です。声そのものにとって大切な成分は、もう少し上にあります。
周波数の決め方の考え方
「ボーカルは何Hzで切る」という決まった数字は、メーカーの資料にも示されていません。声の高さ、マイク、部屋で最適な位置が変わるからです。代わりに、FabFilterは次のような考え方を紹介しています。
方法1:耳で決める
- EQでハイパス(Low Cut)を作り、スロープを18dB/octにします(FabFilterが例に挙げている値です)。
- 周波数を低いほうから少しずつ上げていき、「低音が削れ始めた」と聞こえる場所を探します。
- 聞こえ始めたら、そこから少し戻します。
目的は、音の性格を変えずに、いらない低音だけを減らすことです。「効きが分かる場所」までは上げて、「声が変わる場所」の手前で止める、と考えると迷いにくくなります。
方法2:歌の最低音から考える
FabFilterは、その楽器が出す一番低い音の周波数がわかれば、そのすぐ下にカットオフを置けると説明しています。Pro-Q 3のように、音名と周波数の対応を見せてくれるEQもあります。歌では「この曲で一番低く歌う音」が基準になります。ただし、声には基音より上の成分(倍音)もあるため、最低音ぴったりに置くと声が痩せることがあります。ぴったりよりも、少し下に余裕を持たせるのが安全です。
どちらの場合も
- ソロで決めすぎない:FabFilterは、ソロで音を探るのは勉強になるが、最終的に大切なのはミックスの中でどう聞こえるかだと説明しています。
- オン・オフを同じ音量で聞き比べる。
- 数字は「出発点」として扱い、最後は耳で決める。
出典:FabFilter Learn(Introduction to EQ)
切りすぎの注意
ハイパスは「減らす」だけのフィルターなので安全そうに見えますが、上げすぎると声の下のほうの厚みまで削ってしまいます。次のようなサインが出たら、周波数を下げるか、スロープをゆるやかにして様子を見てください。
- ソロで聞くと問題ないが、オケに混ぜると声が細く、遠く聞こえる。
- 低い声の部分(歌の低音のフレーズ)だけ、急に力がなくなる。
- オン・オフで比べると、オンのほうが「小さく」聞こえる。
低い声の歌い手と高い声の歌い手では、ちょうどいい位置が違います。また、同じ曲の中でも、低いパートと高いパートで印象が変わることがあります。「あの人の設定をそのまま使う」より、自分の声で探すほうが失敗しにくいです。
スロープは、FabFilterの例のように18dB/octあたりから試して、聞き比べながら調整してみてください。
EQのハイパスと、機材のローカットスイッチの違い
ローカットは、EQのほかにも、マイクやオーディオインターフェースの本体にスイッチとして付いている機種があります。メーカーの公式ページにある範囲で、違いを整理します。
| EQのハイパス(DAW内) | マイク・インターフェースのスイッチ | |
|---|---|---|
| かける場所 | 録音したあと、DAWの中 | 録音する前(入力の段階) |
| 周波数 | 自由に決められる(例:FabFilter Pro-Q 4は周波数・スロープを調整できる) | 機種で決まっていることが多い |
| やり直し | いつでも変更・オフにできる | 録音に入った状態になるので、あとから戻せない |
| 主な目的 | ミックスの整理 | 録る時点で不要な低音を減らす |
公式ページで確認できた例
- audio-technica AT2035(マイク):エアコンの騒音などを低減する「80Hzローカットフィルタースイッチ」を搭載、と公式ページに書かれています。
- SSL 2 MKII(オーディオインターフェース):マイクプリアンプに「専用のハイパスフィルター」を備える、と公式ページに書かれています。
スイッチ付きの機材でも、使うかどうかは自分で決められます。迷うときは、スイッチはオフで録っておき、EQのハイパスであとから調整する、という使い方がいちばん取り返しがつきます。エアコンなど明らかに低いノイズが入る部屋なら、スイッチを使う選択肢もあるでしょう。機種ごとのスイッチの有無や周波数は、購入前にメーカーの仕様ページで確認してください。
出典:audio-technica公式、Solid State Logic公式
やり方のまとめ
- ボーカルのトラックにEQを入れ、ハイパス(Low Cut)を1つ作る。
- スロープは18dB/octあたりから試す。
- 周波数を低いほうから上げて、低音が削れ始めた場所を探す。
- そこから少し戻す。
- オケと一緒に、同じ音量でオン・オフを聞き比べる。
- 声が細くなっていたら、周波数を下げる。
ハイパスは、こもりや刺さりを整えるEQの作業の前に、まず済ませておく土台の作業です。続きは「ボーカルEQのかけ方」で解説しています。
よくある質問
Q. ハイパスとローカットは違うものですか?
同じ働きをするフィルターの別名です。FabFilterも、高い音を通すので「ハイパス」、低い音を切るので「ローカット」とも呼ばれる、と説明しています。
Q. 必ずかけないといけませんか?
決まりはありません。FabFilterも、EQに決まりはなく選択があるだけ、という立場です。録音に低いノイズがなく、オケと混ぜても低音が濁らないなら、かけなくても問題ありません。
Q. ハイパスで足りなければ、ほかに何を使いますか?
こもりを整えるにはベルなどほかのフィルター、歯擦音(さしすせそ)にはディエッサーが向いています。使い分けは「ボーカルEQのかけ方」と「ボーカルのディエッサーの使い方」で解説しています。
Q. 無料のEQにもハイパスはありますか?
基本の調整ができるEQは無料でも見つかります。「無料で使えるEQプラグイン」と「EQプラグインの比較」で、機能を確かめられます。
Q. 録音したあとでも、低音のノイズは取れますか?
ハイパスで声の音域より低い成分を減らせます。ただし、声と同じ高さのノイズは、ハイパスでは取れません。そもそも録るときにノイズを小さくしておくほうが確実です。録音の環境づくりは「自宅でボーカルを録るやり方」で解説しています。


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